学生村(21)-秋の気配 [学生村]
2017.7.7
高原の夏は短い。
7月上旬、厚く大きな雲はどこまでも続き、大股で走るように山々を飛び越えていく。
それは幾重にも幾重にも重なり続け、見ることを飽きさせない。
雲の間を純青の空が表れては消え、消えては表れ、俺の出番はまだかまだかとせいているかのようであった。
秋に向かうとき、そんな空には遭遇しない。その雲の色は決まってネズミ色、確かにいつもネズミ色だ。気持ちを十分なくらい落ち込ませるネズミ色だ。
その年の秋も雲はネズミ色一色が多く、今年の冬の厳しさを予感させるものになっていった。
今年の夏は、多くの学生が来た。学生以外にも一般の旅行者、登山家、私たち同様の学生のグループ。山から下りて山村荘に宿をとる者もいれば、下界の新島々から小一時間バスに揺られて来る者もいた。
皆それぞれの理由で、それぞれの目的で、夏のバカンスを楽しんでいるのだろう。
山村荘に宿する者たちは、そこが学生村であることなど知らない。偶然、同じ宿に泊まった者同士という感覚で我々に接してくる。私たちは私たちで、変に常連さん気取りもせず、庭にある卓球台もごく普通に、その一般のお客人にも公平に使えるよう配慮しながら、誰彼となく話しかけ、遊んだ。
しかし、ピーク時は、それなりに大所帯になってしまうわけで、そこは「勝手知ったる他人の・・・」で、宿の手伝いをすることになる。それはそれで楽しく、一般客の皆さんもセルフサービスと思うのか、何の不平もいわずというより、むしろ、和気あいあいとなって、キャアキャア言いながら配膳をしたりした。ご飯のお代わりも自分自分で立っていくのだが、長机の奥に座っている方たちは出にくいので、みんなでご飯茶碗を回し回ししながら、ご飯をよそったりした。
あるとき
a「あれっ、これさっきの茶碗と違うぞ」
b「そうだったかな。記憶違いじゃない?」
すると、隣お隣の席にいた人が
c「そう言えば、私のは青っぽい茶碗だったのに、これ赤だわ」
a「だよね、でも、いいです。私は一向に構いませんよ」
c「えっ・・、まぁ、いいか」
こんな具合に山の一日はあっという間に過ぎっていった。
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