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学生村(12)-牧場 [学生村]

2017.4.27


あるとき、一人で大滝に行き、息抜きをし、番所で蕎麦を食べ、獣道から牧場に出て山村荘に帰ろうとしたときのこと。8月15日も過ぎ、宿のお客も少しずつ減っていき、今は私以外に3人しか滞在者はいなかった。4人はそれぞれ帰宅後の東京の生活、現実に引き戻されることを考え始めたころのことだ。


昼食後の午後一番に山村荘を出てきたのだが、牧場に着いたころはもう夕日がまぶしく鈍い光となっていた

山の夕日が落ちるのは、都会のそれとはかなり時間的に違っており、都会では、夕日を感じてからも結構な時間が経った後に日が落ちるので、当然、その感覚で時間の経過を考えていた。しかし、山、それも山岳というべき高原での夕日の暮れる速度は、思いのほか速く、その割に山村荘への道のりは遠く、ましてや道なき道を自分流に歩いているわけで、この前、みんなと来たときは、確かこの辺を歩いたけど、遠回りしたんだ、だからもっと左側を通っていけば、多分、あの小川に、吊り橋に出るはずだ・・・・・。


と自分が方向音痴ということも忘れ、少し暗くなった牧場を、ホントは当てもなくなんだけれど、そう思っては迷子になると思い、少しの焦りと、ちょっと不安を隠す意味でも、こっちの道が近いに違いないと思い込んで一生懸命歩みを速めて歩いていった。


心の中に少し「焦り」という気持ちが湧いてきた。暗くなったら、どうしよう。真っ黒だと何も見えない。牧場には街灯があるわけもなく懐中電灯も持っていない。高原の夜は月明かりと星明りだけだということを思い出した。


ふと後ろを振り向いた、今来た道を戻るのは行くよりも可能かもしれない。そして表通りを通って山村荘に行ったほうが懸命かも・・・・・。


いろんな思いが交錯したが、一刻も速く結論を出さなければいけない。地べたもうっすらと暗くなってきた。「さっきまで西の太陽が見ていたのに、速いな」


さっき迷っていたことも忘れて、前よりももっと急いで前に進んでいた自分がいた。


10分だろうか、30分経ったのだろうか。全くわからないまま、しっとり暗くなくなった道を無言で歩いていた。


地面が見えなくなると同時に、遠くに目をやると、家の明かりがポツンポツンと灯り始め、何となくそれが頼りになるような、安心な気持ちになって歩いていた。最悪でも、あの明かりを頼りに歩けばいいんだ。


転がるように牧場を急いで歩いた。そこは柔らかい自然の芝生に覆われていて、日中みんなでワイワイやりながら転がりながら歩いてきた場所であった。


見覚えのある木の柵が見えてきた。それはここが牧場だと思わせる唯一のものであった。この柵を越えると、そこには見覚えのある小川があり、そこを渡ると山村荘であった。




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