SSブログ

学生村(4)-不思議な部屋 [学生村]

2017.4.20


山村荘には母屋のほかに別棟が2つあり、その一つに泊まったことがあった。


どういうわけか間取りは一部屋のみ、立ち机に電気スタンドは定番だが、ほかにトイレと風呂場があった。


その一部屋は24畳あり、ほかには何もない。あるのは押し入れと窓一つだけ。他には床の間もなければ、何もない。ただバーンと24畳があるだけだった。入った瞬間、どこに机を置けばいいのか、ちょっと迷った。窓は部屋の右角に1間幅の両開き窓が1つ。普通だったら窓際に置いて一件落着なのだが、この部屋はいかんせん24畳あるわけで、窓際に机を置き、椅子に座ると、自分の後ろには23畳もの空間があり、妙に落ち着かない。後ろに誰かがいそうで、机に向かっていても、ふと後ろを振り返りたくなるような、そんな恐怖的な衝動にかられてしまう部屋であった。


24畳ということは、横4畳、縦3畳の中に畳が24枚入っているわけで、どういう理由があって、この部屋をつくったのか、皆目検討がつかない部屋であった。


自分の落ち着くべきところを探し求めて、机を部屋の中央に置いてみた。


いかん、全然落ち着かん。


それでは、玄関の上り框のところに客人と向き合う形で机を置いてみた。これなら、誰かが来てもすぐにわかるし、恐怖的衝動にもかられないだろうと思ったが、これも変だ。どう考えても変だ。部屋が狭いわけではなく、後ろに23畳あるわけだし、第一、誰かが来ても机が邪魔をすることになり、机をすり抜けて部屋に上がることになる。何ともこれも奇妙で滑稽だ。それに裸電球1つ、それも40ワットの乳白色。電気スタンドのコンセントは窓枠の下にしかない。仕方なく、やはり窓の真ん前に机を置くことにした。


窓からの景色は絶景であった。「女体が仰向けに寝ているような山形をしていてそそられるぞ」とご紹介をいただいたのは、あの慶応ボーイだった。ちょっど舟木一夫を思い出させる風貌をしていて、あっという間に「舟木さん」というあだ名がついてしまった。


真夏によくある怪談話は、学生村では全く馴染まず、怖がりな私にとってはもっけの幸いであった。明かりは24畳の真ん中からつり下がっている裸電球1つと電気スタンドだけテレビもなければ、ラジオもなく、長い夜をひたすら読書か、勉強かをするだけの生活であった。


夜も更けてきて寝ることになった。さて、どこに布団を敷いたものか。部屋の隅? 部屋の真ん中? 机の傍? 玄関の近く? 


困った。ほんとに困った。こんなにも布団を敷くのに悩んだことはなかった。ここも仕方なく、妥当であろう部屋の片隅から残りの23畳を見つつ寝ることにした。


そういえば、ここは玄関の鍵もない。都会のような物騒なこともないのだろうが、都会から来たばかりの人間でさえも、それが何の違和感もなく受け入れられてしまう、そんな不思議な場所が学生村であった。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0