2017.11.9



しばらくすると加奈子が学校から帰ってきた。彼女は色黒で健康的な日焼けをしている子どもであった。まだ小学生の低学年だった。しかし、背は高く、学校でも大きいほうだと聞いた。当時、私は余り幼い子どもに興味もなく、季節の挨拶程度に彼女のことを聞いていたので、気にもとめなかったが、今にして思えば、4年生ぐらいの年にしてはおませさんだったかもしれない。それは宿に来る人たちは当然ながら皆年上のお客さんが多く、いろんな人たちの中で話をしたり、遊んでもらったり、また宿の女将の手伝いもしなければいけないということが、彼女の感覚を大人にしていっているのかもしれなかった。


女将に言われたことはテキパキこなす子どもであった。その日、彼女が下校してきたので、そのことを彼女に伝えた。「山田くんが待っているらしいから、少し待っていてとお母さんが言っていたよ。」


「うん」と言葉にならないくらいの小さな声で彼女はうなづいた。

どこかに行く約束をしたんだろうと私は思い。女将からの伝言を彼女に伝えたことで、そのことは忘れていた。


私はいつも日常をスケジュールどおりに過ごした。当時、学校も卒業し、私の学友は皆就職したということは風の便りに聞いていた。友人がどうあれ、自分は自分の道をはっきりと見定めているつもりだったので、「内定が決まった」とか、「就職した」と聞いても別に焦りを感じることはなかった


朝6時起床、着替え・洗顔、1時間の勉強、8時食事、9時~12時まで勉強、12時昼食、13~15時余暇、15~17時勉強、17時夕食、18時~21時勉強・入浴。23時就寝。


こんな一日の予定を自分で組み、過ごしていた日々であった。