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学生村(27)--山田君のその後(3) [学生村]

2017.11.2
環境とはおもしろいもの。人間はないものから新しい遊びを生み出す。彼もまた遊びの天才として、いろいろな遊びを作り出していた。
山田君は、なぜ学生村に来たのか。その目的はよくわからない
彼とは余り話したことはない。たしか自分より2つほど下だったろうか。彼の出身の高校は、都立の名門であった。その名前を聞いたとき、私は、えっ?と声を上げてしまったほどだ。普通、ここの高校を出た者は、人生において大多数の者が成功という名をほしいままにしていたからだ。
「こいつ、頭いいんだ。」私は心でそう叫んでいた。あんまり馬鹿を言ってはいられないな。そう思ったためか、私は彼とは必要なこと以外はあまり話さなくなった。彼もまた、年の割には大人っぽく、年上の弁護士の卵とか、高校の先生とかと話をすることが多かった。そういうことも彼と疎遠になった理由かもしれない。
彼はたばこもよく吸っていた。学生村に滞在している人間は、大方が貧乏学生であった。それぞれの目標に向かっているとはいえ、それぞれの家庭の事情は当然異なっているわけで、それは持ち物、買うもの、着ているもの、それから漂ってくる雰囲気で何となく理解できた。
彼はいつもふいを突いて来るようであった。私が初めて学生村に来るときは、学生村の協会のようなところに予約の電話を入れ、学生村の一軒の宿を紹介され、そこを通して、何日ぐらいでお願いしますと予約をすることがパターンであったので、宿の女将が「山田さん、今日来るって言っておるが。なんでも突然来るというとるから、断れんよなこともあったりしての、こっちは来るって思ってんば、何というか・・・・」と、よくわからない方言で言っているのを聞いて、彼とは知り合いなんだ。突然、来るといっても、それが通る相手なんだと思った。
その日の午後、彼はまさにぬくっと突然あらわれた。サラサラな髪の毛、紺色のTシャツ、着慣れたGパン、ビーサン、サングラス、たばこを燻らしていた。庭で卓球をしている俺たちには目もくれず、黙って玄関に腰を下ろし、軽そうなバックを一つ持っていた。
私達長期滞在者は、チッキ--今でいうところ宅急便の鉄道便バージョンしかなかったので、東京の近くの駅にそれを持ち込んで、到着駅まで一緒に運んでもらって、残り宿までの間は、自分が運ぶという、そんなシステム(チッキ)を利用していた。決してバッグ1つで済むような量ではなかった。

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