学生村(31)--山田君のその後(7) [学生村]
2017.12.22
山田君と加奈子のことは部屋を出ると同時に私の頭からは離れていった。番所にでも行ったんだろう。直ぐに帰ってくると簡単に考えていた。それは誰もがそう考えていた。
夕食後、私は離れの部屋に戻って勉強をした。21時過ぎ、一段落し、珈琲を飲もうとマイカップにインスタントコーヒーを入れ、お湯をもらいに母屋に行った。(離れは寝泊まりする部屋と勉強机、風呂、トイレがあるだけ、ガス台はなかった)
玄関のドアを開けたとき、女将のたけけましい声が聞こえてきた。
「何を考えているんだが、あんたがた、どれだけ心配していたかわからんずいたんだが、ずっと待っていたいだに、人の気持ちを考えなきぎゃ、そんなこと忘れずにおれんぞのこともありな〇×▲?!#"・・・・・・・」と相変わらずの大声で、詳細は不明だが、大筋は了解できる話が食堂の奥から聞こえてきた。
大体のことは理解できた。
今、帰ってきたんだ。でも、食事はどうしたんだろう。加奈子は無事だったのか。
玄関の扉を閉め、靴を脱ぎ、廊下をとおり、暖簾を分け入り食堂に入った。
宿屋の関係は割とフランクというか、自分本位だったから、食堂で喧嘩をしていようが、密談をしていようが、割とみんなは無関心的関心で対応するのが常だったので、自分も意外なほど、躊躇なく食堂に入っていった。
山田君と加奈子と女将が長テーブルを挟んで座って話していたが、女将は食堂に入ってきた私を見て、少しだけバツの悪い顔をし、台所に入っていった。
「オゥ。帰ってきたんだ。」
「うん」
「どこまで行ってきたんだ。」
「新島々まで行って、ブラブラしてからバスで番所に行って、食事をして、滝を見に行ったら最終バスもなくなって、今、歩いて帰ってきた」
「そりゃ、よかったな。加奈子、楽しかったか?」
「ウン」
加奈子は女将の小言にも臆することはなく、元気はつらつ、何の曇りもなく、新島々での出来事、食事のこと、山田君のことなど、楽しかったことをうれしそうに私に話してくれた。
彼女の顔を見ていると、本当に楽しそうで、自分にも、そんなに彼女を喜ばせられるだろうかという思いが沸いてきて、少しだけ嫉妬心のような、遅れをとった気持ちが沸いてきた。
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