2017.6.16


また話がずれてしまった。年をとると話が長くなるのが習慣化してくる。困ったもんです。


ある初夏の朝、まだうだるような夏ではなかったと記憶している。4時に起床、4時半には釣り場に到着。

釣り竿、道具箱を抱え、通称土管(田んぼからの排水口)の上に急ぎ登り、定位置を確保しようとしていたときのことだった。


彼は土管に座ろうとしていたのだが、彼の右手に持っていた竿は彼の頭上よりも高く、そして釣り糸の先は水面よりもはるかに高くゆらゆらと揺れ、たなびいていた


彼も、私も自分の定位置を確保することに集中していた。


そのとき、「バシャッ!」と水しぶきが大きく上がり、その音は夜も開けきらぬ沼に大きく響きわたり、また「ドブ~ン」音という大きな音とともに、暗闇の中の静寂に引き戻されていった




一瞬、子どもが水面に落ちたのかと思った。



しかし、彼は定位置確保に一生懸命であった。次の瞬間、それは理解できた。紛れもなく、あのブラックバス釣り竿目掛けて飛び掛かってきたのだった。


「すっごい、こんなの初めてだ。ダイスケ、急いで竿を入れな。今のバスまだ近くにいる、きっとすぐに釣れる」と大声で叫んだ。


きっとそのバスは夜明け前、空中に飛んでいる虫などを狙って上を見上げていたのであろう。そのときちょうど、彼の釣り竿とその先にあるワーム(疑似餌)が空中をブラブラと揺れていて、それを虫だと思い一心不乱に飛び掛かったのであろう。そのジャンプは高さ2メートルを優に超えていた。


驚いたのか、彼はちょっとだけ手を振るわせながら、竿を少しだけ振ってワームを水中に投げた。「ポトン」と音が響きわたった。彼はゆっくりリールを一巻巻き、二巻巻き、三巻巻いた。


そのとき、グッグッグッと彼の竿がしなった。思いっきり彼は竿を立てた。目論見どおり、そのバスが彼の竿にかかった。グングン引いていく


私「そうそう、少し糸を出しながら泳がせるといい

ダイスケ「うん、で、でも、すっごく重いし、引っ張られる

私「あんまり、引っ張らない、流して流して、糸切れちゃうから、バラけないように・・・」

ダイスケ「「わっ、わかった・・・・・」


バスと格闘すること1分ぐらいか。彼の力だとそのぐらいはかかってしまう。それに結構大きい。


手元に近づいてきたバスを慎重に引き上げ、針をとり、彼に持たせた。立派な大きさだ

彼の目の前には35~40センチのバスがあった。


当時、彼はまだ小学4年生。いいインパクトの思い出ができた。


幼稚園の運動会、親子参観日、卒園式などなど、親の参加する大会はこぞって辞退してきた我が身にとって、唯一、親父の存在感を示せた貴重な体験であった。