学生村(11)-牧場 [学生村]
2017.4.26
番所から山村荘に帰るコースは2つあった。一つは道路沿いに沿って歩くごく当たり前のなんの変哲もない詰まらない道だ。当時、そこは舗装もされておらず、されていたとしてもほんの10メートルが断続的にされているだけであり、あとは砂利道で、車が通る度に砂煙を立てて走り去っていく有り様であった。
もう一つは裏道のコースがあった。番所から直ぐ脇道に雑草の繁った獣道があった。そこを下っていくと、大きな野原に出た。後で気がついたことだが、ここは牧場であった。それもかなり大きな牧場で、霧縦高原の山の麓にかけての大きなものだった。牧場だから、当然のごとく牛が放牧されている。しかし、とてつもなく広いものだから、その牛と出会う確率はかなり低く、最初はそこが牧場であるということは全くわからなかった。
表通りの山道の喧騒とは裏腹に、人工的な音は皆無であった。鳥のさえずり、風のささやき、雲の流れ、木々が風でこすり合う音、時たま聞こえる牛の遠吠え。それに自分の足元の草に分け入る音。そこはどこまで行っても、どこまで行っても、誰に邪魔されるわけもなく、広い、気持ちのいい空間であり、山村荘のみんなは度々気分転換と称して散歩していた。
そこから山村荘まで歩いて行くわけだが、もちろん、農場だから道はない、少しだけ上りのような、感覚だけを頼りに、勾配だけを頼りに宿を目掛けて歩いていくという、何とも心もとない散歩道であった。
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